こんにちは。kuma&nomiです。

今日は鮭の赤身に含まれている色素についてです。アスタキサンチンという色素がその原因物質です。IUPAC名は(6S)-6-Hydroxy-2,4,4-trimethyl-3-[(1E,3E,5E,7E,9E,11E,13E,15E,17E)-18-[(4S)-4-hydroxy-2,6,6-trimethyl-3-oxo-1-cyclohexenyl]-3,7,12,16-tetramethyloctadeca-1,3,5,7,9,11,13,15,17-nonaenyl]-1-cyclohex-2-enoneです。これについてはこの記事の最後で説明します。

アスタキサンチン (astaxanthin, astaxanthine)
astaxanthin

構造式はβ-カロテンによく似ています。

β-カロテン(ベータカロテン、ベータカロチン、β-carotene)
βカロテン

アスタキサンチンとβ-カロテンは両側の6員環の構造が若干違うだけです。つまり、アスタキサンチンの両末端の6員環には=Oと-OHが置換基として付いています。水酸基(-OH)は共役系とは関係ない、つまり、単結合が2つ連続しているところに付いているので、色にはほとんど影響しません。共役系とは単結合と二重結合が交互に繋がっている部分のことです。この規則性が崩れたところで共役系は終わりです。アスタキサンチンは酸素原子Oが二重結合で繋がっている分、β-カロテンよりも共役系が長くなっています。少しマゼンタに近い赤色かもしれませんし、β-カロテンとほとんど変わらない赤色である可能性もあります(正確なデータは紫外可視吸収スペクトルを測定しないとわかりません)。それは下記の理由によります。

一般に、共役系が長くなるほど波長の長い可視光を吸収します。例えばベンゼン程度の共役系の長さであれば紫外光を吸収しても可視光の領域の光は吸収できないので無色です。少し共役系が長くなったナフタレンはまだ無色です。さらに共役系が長くなったアントラセンは淡黄色になってきます。さらに共役系が伸びて行くと、赤→マゼンタ→青→緑→→黒と変化していきます。共役系が無限になったグラファイト(黒鉛)はすべての可視光を吸収するので黒色を呈します。金属光沢は自由電子があるためです。だから電流が流れます。

ベンゼン
benzene

ナフタレン
naphthalene

アントラセン
anthracene

アスタキサンチンの場合、この共役系がC=C二重結合で伸びたのであれば長波長の光を吸収すると思いますが、C=O二重結合で伸びているのでその長波長シフトの度合いがC=C二重結合の場合と比べてどの程度なのかはわかりません(Oは電気陰性度が高いので別の要因が働くかもしれません)。おそらくβ-カロテンの色から大きくは変わらないでしょうが、少し長波長側に吸収帯(吸収極大波長λmax)がずれている程度かもしれません。短波長側にシフトしていることはないと思いますが・・・。

いずれにしても、サケの身が赤いのは、このようにニンジンのβ-カロテンとよく似たアスタキサンチンという色素を含んでいるからです。

サケは産卵時にこのアスタキサンチンが卵(イクラ)や皮膚に移るので、本来の白身になります。私はよく渓流の釣り堀にフライフィッシングやルアーフィッシングでヤマメやニジマスを釣りに行きましたが、釣った魚をさばいて食べる時に、サケの身に似て赤いなーと思っていました。特に、大きいヤマメやニジマスは焼いて食べたりすると色のみならず身のパサパサ感もサケによく似ていました。ニジマスやヤマメも同じサケ科の魚なので納得なのですが、大きな魚になるほど身が赤身になっていたような気がしました。

アスタキサンチンのIUPAC名

アスタキサンチンのIUPAC名はどういうふうに付けてあるかを解説します。まず、アスタキサンチンの右端のシクロヘキサノンを中心に付けます(ここでは右、左は重要ではなく、左側から命名することもできます)。つまり、シクロヘキサノン(二重結合が1個付いているのでシクロヘキセノンですが・・・)の3-位に左側の大きな置換基が付いているという形で付けます。

置換基が付いたシクロヘキサノンとして命名するので、cyclohexanoneのoneの部分、つまりケトンの>C=Oの部分の炭素原子Cが1番になります。そして、右回りか左回りかはこの場合は左回りを採用します。その理由は次の通りです。左回りで2-位にメチル基があります。右回りでは2-位に水酸基(-OH)があります。この段階ではどちらを優先かは決められません。しかし、左回りでは次の3-位に大きな置換基が付いていて、右回りでは3-位に置換基はありません。よって左回りを採用します。そうすると水酸基が6-位に付いていることになります。

3-位に付いている大きな置換基は炭素数18の化合物とみなします。つまりoctadecaneに二重結合やメチル基がたくさん付いて、シクロヘキサンが付いているとして命名します。そして、シクロヘキサノン環の2-位と4-位と4-位に3個のメチル基が付いています。これが命名における大まかな骨格です。置換基をどの順番に並べるかは頭文字のアルファベット順です。h>m>oなので(この場合、接頭辞triのtは考慮せずmで比べます)、6-Hydroxy-2,4,4-trimethyl-3-octadecyl-1-cyclohexanoneが基本骨格となります。

命名のメインとするようにした化合物cyclohexanoneにC=C二重結合が1ヶ所あるので、それを指定します(※ここではシクロヘキサノンに置換基が付いている化合物として命名する方針でいきましたが、中央部分のオクタデカンに置換基が両側に付いているという方向性で命名することも可能だと思います)。C=C二重結合は2番と3番の炭素の間にあるので、位置番号は2とします。したがって、6-Hydroxy-2,4,4-trimethyl-3-octadecyl-1-cyclohex-2-enoneとなります。

これに置換基を付けていきます。3-位の置換基のオクタデシル基にさらに置換基が付いているので、それを付けましょう。

オクタデシル基に9個のC=C二重結合があります。よって、octadedecenylのenの部分に9個を表わす接頭辞を入れます。octadecanonaenylとします。そして、9個のC=C二重結合の位置番号を指定します。右側のシクロヘキサノン環(シクロヘキサノン環)に繋がっている炭素Cが1番になります。よって、octadeca-1,3,5,7,9,11,13,15,17-nonaenylとします。これにメチル基が4個、3-位, 7-位, 12-位, 16-位に付いているので、3,7,12,16-tetramethylを付けて、3,7,12,16-tetramethyloctadeca-1,3,5,7,9,11,13,15,17-nonaenylとなります。これにさらに二重結合の幾何異性体の種類を指定します。置換基の付いたC=C二重結合には2種類の幾何異性体が存在します。シス型とトランス型です。シス型は曲がった形で、トランス型は伸びた形です。シス型とトランス型はZ型とE型という表記法もあります。トランス型はE型で、シス型はZ型です。文字の形からトランス型がZ型で、シス型がE型のように勘違いしがちですが、逆なので注意。上記の9個のC=C二重結合はすべてトランス型です。よって、(1E,3E,5E,7E,9E,11E,13E,15E,17E)-を付けます。

次に、左端のシクロヘキサン環を置換基として命名します。オクタデシル基に繋がっている部分の炭素原子Cを1番とします。先に説明した方法で考えると、この場合は右回りになります。よって、4-hydroxy-2,6,6-trimethyl-3-oxo-1-cyclohexenylとなります。これがオクタデシル基の18番の炭素Cに付いているので、[ ]に入れて表記します。

あと、キラルな炭素の部分が2ヶ所あります。どこかというと、黒い三角形で書いてある部分です。この三角形は画面の平面から自分の顔の方に出ていることを意味します。もう一つ、画面の裏側に向いている場合があります。これらを区別する必要があるわけです。このような関係の異性体を鏡像異性体とか、光学対掌体とか光学異性体とかエナンチオマーとかいいます。R-体とS-体があり、どちらであるかを指定しなければなりません。この考え方は下記の記事に書いています。結論としてはS-体になります。位置番号を付けて6Sと4Sになります。括弧に入れて表記します。


これらをまとめるとアスタキサンチンのIUPAC名は下記のようになります。慣用名を使った命名をするとすれば、β-カロテンに置換基が付いた形で3,3′-ジヒドロキシ-β-カロテン-4,4′-ジオンも「あり」です。同じ位置番号が2ヶ所ずつあるのでプライム記号(′)で区別します。IUPAC命名法ではそれぞれの置換基名の入った( )か[ ]の中で区別されているのでプライム記号(′)は使わなくても済みます。

(6S)-6-Hydroxy-2,4,4-trimethyl-3-[(1E,3E,5E,7E,9E,11E,13E,15E,17E)-18-[(4S)-4-hydroxy-2,6,6-trimethyl-3-oxo-1-cyclohexenyl]-3,7,12,16-tetramethyloctadeca-1,3,5,7,9,11,13,15,17-nonaenyl]-1-cyclohex-2-enone

または、

(6S)-6-Hydroxy-2,4,4-trimethyl-3-[(1E,3E,5E,7E,9E,11E,13E,15E,17E)-18-[(4S)-4-hydroxy-2,6,6-trimethyl-3-oxo-1-cyclohexenyl]-3,7,12,16-tetramethyloctadeca-1,3,5,7,9,11,13,15,17-nonaenyl]-2-cyclohexene-1-one

ふぅ〜、疲れましたね。

それでは、また。