タマネギやニンニク、ニラやラッキョウは独特の香りがします。これらの中のにおい物質は硫黄原子Sを含む化合物です。ニンニクのにおい成分は酵素反応によって生じたアリシンがさらに化学変化したものです。

抗菌作用のあるアリシンが臭いジアリルスルフィドなどの揮発性分に変わります!

アリシンの分子構造

ニンニクやタマネギにはアリインというアミノ酸が含まれています。示性式を書くと、H2N-CH*(COOH)-CH2-S(=O)-CH2-CH=CH2となります。20種類のα-アミノ酸のうちの1つとして知られるL-システイン(しみ、そばかすに効くとCMでいわれているアレです)の側鎖のSHのところがスルフォキシドになった化合物で、>S=Oの先にある置換基はアリル基-CH2-CH=CH2です。アリル基が付いているからアリインというような名前になっているわけですね。アリインは無色、無臭の化合物です。ニンニクを包丁で刻んだり、傷つけたりすると、アリイナーゼという酵素とアリインが接触する確率が高くなります。その結果、接触したアリインとアリイナーゼが行う酵素反応によりアリルスルフェン酸CH2=CH-CH2-S-OHとアミノアクリル酸CH2=C(NH2)-COOHが生成します(酵素は元の状態に戻り何回も仕事をします)。

アミノアクリル酸CH2=C(NH2)-COOHは加水分解してピルビン酸CH3C(=O)-COOHとアンモニアNH3になります。アリルスルフェン酸CH2=CH-CH2-S-OHは2分子間の脱水反応(H2Oが取れる反応)により縮合し、さらに転位してアリシンCH2=CH-CH2-S-S(=O)-CH2CH=CH2になります。アリシンは抗菌剤、抗黴剤として作用します。しかし、化学的に不安定なので、次々と化学反応が起こり、あのニンニク臭のする揮発性のジアリルジスルフィドCH2=CH-CH2-S-S-CH2CH=CH2(化合物の分類上はジスルフィドになります)などの悪臭化合物に変わります。それゆえ、ニンニクの匂いを抑えるためには必然的にアリイナーゼの働きを抑えればよいことになります。一般に酵素は高温に弱いので、蒸したり電子レンジでチンするなどして加熱することにより、この酵素を失活させることができます。失活すれば、酵素反応を抑えることができ、アリシンの生成を抑えられるので、ジアリルジスルフィドなどの悪臭化合物の生成も抑えられることになります。

なぜ、ニンニクやタマネギを刻んだり、潰したりしなければ反応しないのでしょうか。それは、アリインとアリイナーゼはニンニクやタマネギの中で別々の部分に存在していて、それらが外部から攻撃を受けることにより物理的に接触機会が得られて反応するのです。つまり、生成したアリシンには抗菌作用などがあるため、ニンニクやタマネギが身につけた外敵から守る手段の一つではないかと考えられています。

このような化学的に不安定なアリシンを職人の手で30日間熟成して、アリシンをマイルドに凝縮した商品が出ています。化学の専門家の私としてはどのように閉じ込めたのかという点にとても興味がありますが、閉じ込められているかどうかは、アリシンが空気に触れたときに出る強い匂いでわかるわけです。