しょうがは体を温め、冷えを改善する効果があるといわれています。それはジンゲロール(gingerol)のおかげです。ギンゲロールと書いてあるのもありますが、読み方の問題でしょうか。ここではジンゲロールの方を使うことにします。

ジンゲロール
6-Gingerol

ジンゲロールを加熱するとショウガオール(Shogaol)やジンゲロンが生成します。

ショウガオール
6-Shogaol

ジンゲロン
Zingerone

ジンゲロールの正式名(国際名, IUPAC名)は(S)-5-ヒドロキシ-1-(4-ヒドロキシ-3-メトキシフェニル)-3-デカノンといいます。これを加熱すると5番の炭素C原子に付いている水酸基(-OH)と、その左側の4位のC原子に付いている水素原子(H)がH2O(エイチツーオー)になって脱水反応が起こり、ショウガオールが生成します。

上の構造式は線で書いてありますが、化学を専門とする人にとっては普通の書き方です。いちいち書いているとかなり面倒くさいのでこのような書き方が決められています。例えば、棒が一本あったら(➖)これはCH3CH3に相当します。したがって、上の2番目の構造式の左下のO➖はOCH3を意味しています。

ショウガオールは唐辛子の辛さを量る単位であるスコヴィル値がカプサイシンに次いで高いです。ジンゲロールのスコヴィル値はショウガオールの約3分の1で4番目です。

しょうがはニンニク、キャベツ、甘草(カンゾウ)、大豆、ニンジン、セロリ、パースニップなどと同じカテゴリーに含まれ、がん予防効果もあると言われています。一般にがん細胞は温めると死滅するということで、温熱療法というのもあるくらいですがら、体を温めてくれるしょうがはがん予防に効くということでしょうか。私はそう考えてしまいます。でも、体温の低い人はがんになりやすいという話は聞いたことがあります。

しょうがには根しょうが、新しょうが、葉しょうがなどがあります。これらは収穫時期が異なるので名前が区別されています。夏に早掘りした新しょうがは6月〜8月がシーズンで、酢漬けなどで食べると美味しいと言われています。葉しょうがは5月〜7月に出回り、漬け物や天ぷらがおいしいと言われています。ジンゲロールはしょうがの成分の中で特に知られた成分で、その名前からgingerに含まれているアルコールというイメージがわきます。ジンゲロールは新鮮なしょうがに含まれています。細かく刻むかすりおろすかして摂取すると、冷え性の人に効果があります。また、抗酸化作用や殺菌・解毒作用があります。しょうがの成分は、ジンゲロールのほかにカリウム、マグネシウム、マンガン、食物繊維などがあります。マンガンは抗酸化作用を示す酵素の補因子でもあるので、老化防止に効果があるといわれています。また、200種類以上の香り成分が含まれているので、魚の生臭さを取るのにも利用されます。サバとの組み合わせで血流を良くする効果があります。サバに含まれるEPA, DHAと組み合わせると効果が上がるといわれています。

IUPAC命名法でジンゲロールに正式名称を付けてみましょう

有機化学を学んでいる学生のためにジンゲロールに国際名を付けてみましょう。

まず、炭素数10個の飽和炭化水素であるデカンdecane (C10H22)にベンゼン環と水酸基(-OH)とC=C二重結合があると考えます。正六角形のベンゼン環が付いているデカンの炭素原子を1番とします。そこから上の図では右側に向かって数えていくと、5番目の炭素に水酸基-OHが付いています。そうすると、5-hydroxydecaneとなります。その隣りの隣りの3番の炭素原子にC=O二重結合があります。この官能基はC=Oの両側がHではなくCの化合物なので(一般にアルキル基とみなしていいので)、化合物としてはケトンに分類されます。すなわち、decaneの語尾のeをとってケトンであることを表わす-one(オン)を付けます。主鎖の炭素数が10個のケトンで、3番の炭素原子に=Oが付いているので3-decanoneとなります。これがケトンの命名法です。

さらにベンゼン環を付けます。1番の炭素にベンゼンから1個のH原子が外れた形のフェニル基(C6H5-)が付いていると考えます。そうすると5-hydroxy-1-phenyl-3-decanoneとなります。hydroxyとphenylの順番は、頭文字をアルファベット順に並べます。だからhydroxyのあとにphenylが来ます。逆はだめです。

次に、フェニル基に置換基が2個付いているので、それを名前の中に組み込みます。付いているのは水酸基(-OH)とメトキシ基(-OCH3)です。ベンゼン環の6個の炭素原子に位置番号を付けます。デカンに繋がっている炭素を別の1番とします。つまり、括弧( )を使って区別します。この場合、左回りに数えると4番目の炭素に-OHが、5番目の炭素に-OCH3が付いていることになります。右回りに数えると3番目の炭素に-OCH3が、4番目の炭素に-OHがが付いていることになります。どちらを採用するかというと、後者です。最も若い番号になるようにします。つまり、4,5-と3,4-を比べて、先頭の数字が若い(3<4)方の後者を採用します。そうすると、5-hydroxy-1-(4-hydroxy-3-methoxyphenyl)-3-decanoneとなります。

最後の仕上げは立体配置です。水酸基(-OH)が付いているデカンの5番の炭素は不斉炭素です。つまり、炭素から出ている4本の手にすべて異なるものが付いている場合の炭素は右手と左手に相当する異性体が存在しています。これを含む化合物を光学異性体、光学対掌体、エナンチオマーとかいいます。つまり、右手と左手のどちらに相当するものかというのがわかるように名前に組み込まなければなりません。読者の皆さまが御馴染みのアミノ酸はL-グルタミン酸とかD-アスパラギン酸とかありますよね。その場合はDL表示法に基づいた表記です。もう一つ、RS表示法というのがあります。DL表示法は基準となる化合物(D-グリセルアルデヒド)と同じ立体配置のものをD体(dextroの頭文字)、それを鏡に映した時の形をL体(levoの頭文字)とします。これは基準物質を知らなければどうにもならないのですが、それを知らなくても付けることができるのが絶対配置のRS表示法です。

例えばL-アラニンを例に挙げます。アラニンは炭素Cにアミノ基(-NH2)とメチル基(-CH3)とカルボキシル基(-COOH)と水素原子Hが付いています。海岸にあるテトラポッドを想像してください。あの四面体の4つの角に前述の4つの置換基が付いていると考えます。そして、最も原子量の小さいH原子が自分の顔から最も遠くになるように見ます。すると、顔に近いところに三角形が来ています。つまり、アミノ基(-NH2)とカルボキシル基(-COOH)とメチル基(-CH3)があります。これに優先順位を付けます。付け方は中心の不斉炭素に繋がっている原子の原子量が大きい順に付けます。つまり、アミノ基(-NH2)のNは14、カルボキシル基(-COOH)の炭素Cは12、メチル基(-CH3)の炭素Cは12です。アミノ基(-NH2)が最優先であることがわかりました。しかし、炭素Cが2つあります。これに順番を付けなければなりません。そこで、その炭素原子に付いている原子に着目します。カルボキシル基(-COOH)には酸素原子Oが付いています。メチル基(-CH3)には水素原子Hが付いています。酸素原子Oの原子量は16、水素原子Hの原子量は1です。よって、カルボキシル基(-COOH)はメチル基(-CH3)より優先です。これで優先順位が決まりました。アミノ基(-NH2)>カルボキシル基(-COOH)>メチル基(-CH3)です。この順番に先ほどの三角形を辿ると反時計回りになります。つまりsinisterの頭文字のSを使います。時計回りの場合はrectusとなるので、頭文字のRを使います。括弧を使います。

ちなみにタンパク質を形成している20種類のα-アミノ酸においては、グリシンだけが不斉炭素がないので、D-体もL-体もありません。しかし、残りの19種類は光学活性です。ほとんどはS-体で、L-体に相当します。ヒトに必要なのはL-体のアミノ酸です。しかし1個だけ例外があります。しみ、そばかすなどに効くとしてよくテレビのCMにも出て来るL-システインはR-システインになります。なぜかというと、システインは中心の不斉炭素にアミノ基(-NH2)とエタンチオール(-CH2CH2SH)とカルボキシル基(-COOH)と水素原子Hが付いています。-CH2CH2SHと書くと、2番目の炭素にはHが2個だけ付いているように勘違いしそうですが、Sも付いています。よって、SとOを比べます。硫黄原子Sの原子量は32なので、カルボキシル基の酸素原子Oの16よりも重いから、優先順位が前述の半時計回りの逆になってしまうのです。つまり、L-システインだけは上記の方法では時計回りになってしまうので、R-システインになります。私は「α-アミノ酸はL-体がS-体、システインだけはL-体がR-体」と記憶しています。

でも、注意してほしいのは、ヒトの体はL-体しか受け付けないというのはアミノ酸の場合であって、糖の場合はD-グルコースがヒトには有用です。ものによります。

以上をまとめると、(S)-5-hydroxy-1-(4-hydroxy-3-methoxyphenyl)-3-decanoneとなります。IUPAC名というのは、その名称から分子を正確に組み立てることができるように考案された名称なのです。それに対して慣用名というのがあります。上で言うならジンゲロールとか、ショウガオールとかジンゲロンですね。これらは知っていなければどうしようもありませんよね。だからIUPAC名が重要なのです。酢酸を思い出してください。示性式はCH3COOHですね。慣用名は酢酸(acetic acid)ですが、これで分子を組み立てることはできませんね。しかし、IUPAC名はethanoic acidです。ethane (C2H6) ⇒ ethanoic acid (CH3COOH)となります。炭素数2個のカルボン酸のIUPAC名は炭素数2の飽和炭化水素(アルカン)であるエタンethaneの語尾のeを-oic acidにします。ethanoic acid (エタン酸)です。

それでは、また。