水素は体内の有害な活性酸素を水に変えてくれるので、「水素が溶けた水」を飲むとよいというのが少し前までのトレンドでしたが、逃げてしまうとか諸々の問題があり、商品の方向性としては最近ではプラスチックの容器ではなくスチール缶に水素と水を密封したり、水の電気分解による水素発生器の方に変化してきているような気がします。

水素水のそもそもの考え方は、水素H2は還元剤だから、体に害のある活性酸素と結び付いて無害な水分子H2Oにしてしまうというものです。学術的にはリーズナブルです。実際に機能しているのかがは確かめようがありませんが。

そもそも水素は原子番号1番の最も小さな元素です。周期表では1族のアルカリ金属と同じ縦のラインに属しますが、金属ではありません。電気陰性度は2.1で、リチウムやナトリウムの電気陰性度より大きいです。有機化学では水素H2と化合した場合、水素化された相手は還元されたという意味になります。酸素と化合すれば相手は酸化されたという意味になります。酸化と還元は常に同時に起こります。すなわち、相手を還元した場合、自分は酸化されなければなりません。相手を酸化したといえば、自分は還元されたということです。相手を還元する能力のある試薬を還元剤、相手を酸化する能力のある試薬を酸化剤といいます。水素H2は相手を還元するので自身は酸化されます。単体の水素H2は酸化数0ですが、化合すると+1になります。例外もあります。NaHのHは酸化数-1になります。NaよりもHの方が電気陰性度が大きいからです。一般に水素Hの酸化数は+1です。このような水素H2が体に害のある活性酸素と反応して水分子H2Oになり無毒になると考えられて商品が販売されています。

体内では活性酸素による酸化反応で様々な害があります。脂質の酸化などが代表的です。野菜を食べると体によいのは、光合成をする植物は常に強い光を浴びながら酸化反応との闘いの中で生きているので、自分を守るために還元剤をたくさん含んでいます。ちなみにこれらの一連の化合物はファイトケミカル(植物化学物質)とよばれています。

水素ガスH2を水に溶かして飲むというのは非常に直接的な方法です。一般に気体は低温であれば水に少しは溶けます。油の分子で最も小さいメタンCH4でさえ少しは溶けます。このときのメタンCH4のまわりの水が凍ったものがメタンハイドレートです。水素原子はヘリウムHeに次いで小さい原子ですが、He分子は単原子分子なのに水素分子H2は二原子分子なので、分子としての大きさの差はますます大きくなります。それでも水素分子は他の気体の二原子分子(N2やO2など)より小さい分子です。その小ささのために、水素吸蔵合金などができるわけです。水素吸蔵合金は水素が金属の原子と原子の間の隙間に入り込むことができるわけです。このような水素分子を体内に取り入れれば、体の隅々にまで浸透できるのではないかというのは想像に難くありません。

水素ガスH2も水への溶解度はあまり大きくないのですが、保存の観点から様々な工夫がなされているようです。人間の老化を早めるのは酸化反応が主な原因と言っても過言ではありません。タバコを吸っても活性酸素が出ます。紫外線を浴びても老化が早いです。活性酸素は遺伝子を傷つけたりします。このような有害な活性酸素[O]を水素H2で水H2Oに変えるというのはとてもリーズナブルな考え方です。

水素H2を水に溶かしてあるものを飲んで体の中の活性酸素を捕捉して無毒化するという原理は化学理論的な側面では面白いと思います。しかし、実際はうまくいくのか、目的の場所まで無事に到達するのか、というのはまた別問題です。机上の空論ということだってありえます。

(ちなみに水素イオンを水に溶かしたら酸性になります。塩酸とか硝酸とか硫酸とか炭酸とか醋酸とか。)

私が以前書いたのを文脈を無視してそのまま引用すると、

でも、素朴な疑問もあります。水素ガスはとても軽いので、蓋を開けたら空気中にあっという間に逃げていくのではないかとか、溶けた水を飲んで胃の中に到達してもうまく吸収されるのだろうかとか、そもそもppm単位の濃度はとても薄いので、水素を溶かした水を瓶に詰めて輸送中に全部逃げてしまわないのかとか(PETボトルを通り抜けていく)、本当に水素が残存しているのか、など。理論的には矛盾なく説明がつくし、興味深いのですが、実験で水素ガスをよく使っていた私からすると、かなり微妙なところがあります。実用的な観点からはどうなのでしょうか。あとの判断は本人次第というところでしょうか。

です。

で、実際の効果は私にはわからないのですが、とりあえず化学的に見てアイデアとして面白いと思ったものを少し取り上げてみました。

1つはスチール缶に水素水を閉じ込めたものです。缶なら水素はプラスチック容器よりも逃げにくいでしょうし、1年後でも溶存水素濃度2.0ppmをキープしているというもの。また、開封後でも1ppmを48時間持続するので、長期保存も可能です。これなら、化学的に見てもリーズナブルです。

もう1つは「水素を飲む、のではなく吸引」というものです。水の電気分解で生成した水素を直接吸い込むというものです。水の電気分解は電気自動車の電気をつくる燃料電池の中の反応の逆反応です。燃料電池では水素と酸素を反応させて水ができる反応で電気を取り出しています。水の電気分解では水素と酸素ができます。

水の電気分解なら「水素水というけど水の中に本当に水素分子が溶存しているの?逃げちゃってるんじゃないの?」という疑問もなく、本当に水素が体に効くのかということはまた別問題ですが、水素吸入器では水の電気分解で生成した水素ガスが鼻から直接入ってくるので、体に入れるところまでは確実です。ここまで不確定要素を排除したことは評価できると思います。あとは水素が思った通りの働きをしてくれるかどうかですが。

最近(昨年12月あたり?)、水素水の問題点がテレビのニュースでも指摘されていたと記憶しています。そうなるとそれを解決するために問題のある商品は消えて、いろいろと知恵を絞った商品がまた出てきますね。私は化学を専門としているので、根本的なところで理論が破綻していないか、瑕疵がないか、素人が間違って書いていないかなどはチェックすることができます。実際のところ、3番目の問題はあります。そういったところを指摘する役割でも社会に貢献できると思っています。

それでは、また。