こんにちは。kuma&nomiです。

昨夜のテレビ番組で電子レンジの中の油汚れを落とす方法として二択の問題が出ていました。1つは新聞紙、もう一つはレモンで、正解は後者です。レモンの果実を半分に切って、3分間チンして、そのあと油汚れを布で拭き取ったら簡単に取れました。レモンといえばビタミンCとかクエン酸とかを連想しますが、ここではこれらの有機化合物は関係なく、柑橘系の皮に含まれるD-リモネンという有機化合物が関係しています。ということは、特にレモンに限定する必要はなく、柑橘類であればだいたい何でもいいわけですが、一般に馴染みのあるレモンを使って紹介されたと思われます。

D-リモネン(D-limonene)
D-リモネン

油汚れが落ちるメカニズム

一言で言うと、D-リモネンが油の性質が強い分子だからです。3分間加熱している間に、レモンからD-リモネンが出てきて、電子レンジの内壁にくっつきます。これが油汚れにしみ込んで軟らかくします。それを拭き取るとある程度は簡単に取れるというわけです。でも、それ以上きれいに取るとなると、洗剤でこすって水をしみ込ませた布巾などで拭き取るとか、エタノールで拭き取るとかが考えられますが、そこまでやる必要はなさそうです。電子レンジの内部が洗剤臭くなったらいやですし、どうせまたすぐに汚れますから。

D-リモネンが油である理由

D-リモネンの構造式を見ると、六員環に炭素1個の置換基と、炭素3個の置換基が付いています。示性式で書くとCH3-C6H8-C(CH3)=CH2みたいな感じです。言葉で言うと、シクロヘキセンの1-位にメチル基が、4-位にイソプロペニル基( CH2=C(CH3)−)が付いています。この化合物は炭素Cと水素Hだけからなることがわかります。これはいわゆる炭化水素(アルカン)(CnH2n+2)と同じような性質を有しているということです。いわゆる「油」です。これにC=C二重結合が入ったらアルケン(alkene)となりますが、やはり油の性質を有しています。ただし、アルカンはほとんど反応性は示しませんが、アルケンは反応性を示します。例えば、C=C二重結合をたくさん有する油は空気中で自然発火したりします。

人間は「水と油」というような表現をします。人間関係においても「犬猿の仲」といいますが、「水と油」という表現があります。水と混ざらないものをざっくりと油としています。

それでは、どのような分子が水と混ざるのでしょうか。それは専門的に言うと「水分子と水素結合できるもの」です。「水分子と構造が似ている部分を有している分子」ということもできます。もっと違う表現を使うと、「水和構造を形成できる部分があって、分子全体に占める油の部分の割合が比較的小さいもの」です。「親水性と疎水性(親油性)のバランスが適度あるいは親水性優位である分子」ということもできます。でも、水に溶ける分子でもそのバランスは化合物によって様々です。油の部分が比較的大きくても、親水基(水と馴染む部分、水分子と親和性の高い部分、水分子と水素結合ができる部分)が強い親水性を有していれば水に潜り込むことができるので水に溶けます。このようなものの代表的なものが界面活性剤、いわゆる台所の洗剤や石鹸などです。界面活性剤は水と油の両方に溶けます。界面活性剤は乳化剤として両者の仲立ちをすることができます。例えば、卵黄の中のレシチンはマヨネーズの中で乳化剤として働いています。

一般に水分子と親和性が高い原子は酸素原子Oや窒素原子Nです。例えば、お酒類は水にエタノールが溶かしてあります。

エタノールはCH3CH2OHです。C2H5OHとも書きますが、この分子は親水基が水酸基(-OH)、疎水基(親油基)がエチル基(CH3CH2-)です。エチル基が小さいのであまり親水性が高くない1個の水酸基だけでもエチル基を引き連れて水分子同士で形成された水素結合ネットワークの中に潜り込むことができます。でも炭素数が4以上になると、それができなくなります。いわゆる油の性質が大きいアルコールとなります。

こうして見て来ると、D-リモネンの分子構造が油の性質が大きいことが理解できるのではないでしょうか。

油汚れが落ちるメカニズム

一般に人間界では「類は友を呼ぶ」という表現が使われますが、化学の世界では「似たもの同士は混ざり合う」(Like dissolves like.)というのがあります(この場合、likeは名詞です)。油と油は混ざり合います。しかし、水と油は混ざり合わず、二層に分かれます。同様に、食塩(Na+Cl)は水には溶けますが、油には溶けません。専門的には「極性の近いもの同士は混ざり合うが、極性が大きく異なるもの同士は混ざらない」と表現されます。その境界線はものによります。アルコールではプロパノール(C3H7OH)は水と混ざりますが、ブタノール(C4H9OH)は水と二層に分かれます。一方、脂肪酸の場合は炭素数がかなり多いパルミチン酸ナトリウムC15H31COONa+でも水に溶けます。

一般に水の上に油が来ます。道路の水溜りにはガソリンは浮きます。だから、台所の油に火がついた時に水をぶっかけたらもっと燃え広がることが理解できますね。しかし、クロロホルムCHCl3のように重い塩素原子Clを有しているために比重が水より大きくなって水の下に潜るものもあります。

リモネンは構造式を見てわかるように、親水基がないので油の性質が大きいことになります。そのため、電子レンジにこびりついた油と混ざり合うことができます。だから、レンジでチンして飛び散ったD-リモネンと油汚れが接して、こびりついた油汚れにリモネンが浸透していき、軟らかくなります。

ちなみに、リモネンにはD-リモネンとL-リモネンとありますが、今回の話ではD-体だろうがL-体だろうが関係ありません。冒頭の構造式の点線のようなくさびの部分は、この画面より下に(奥に)あることを示しています。リモネンの場合はこれがD-体です。一方、点線でなく黒塗りのくさびだった場合は画面より上に出ていることを示していて、リモネンの場合はL-体となります。

リモネンのIUPAC名

薬学系、工学系の大学生のために、IUPAC名を解説します。系統名(国際名、IUPAC名)は1-Methyl-4-(1-methylethenyl)-cyclohexeneです。六員環のシクロヘキサンcyclohexaneにC=C二重結合が1個あるので、-aneを-eneにかえてcyclohexeneとなります。C=C二重結合の2つの炭素原子が1番と2番になりますが、そこに炭素数1のメチル基(-CH3)が付いているので、そのメチル基の位置番号がもっとも小さくなるようにするので1-Methylcyclohexeneとなります。さらに、最も遠い4-位に炭素数3の置換基が付いています。この場合、プロピル基が二重結合を含んでいて2番の炭素が繋がっていると考えるといささか複雑になるので、エチル基に1個のメチル基が付いているという形で命名します。二重結合のところの置換基が付いている炭素を最も位置番号が小さくなるようにします。すると1-methylethylとなりますが、C=C二重結合を1個含んでいるので、eneを入れて1-methyletheneとし、置換基なのでアルカン(alkane)→アルキル(alkyl)のように語尾のeをとってylにすると1-methylethenylとなります。いきなりeneを入れて1-methyletheneylとすると綴りがおかしいので(eneylは誤り)、上記のように1クッション置いてアルカンから考えます。すると1-methylethane → 1-methylethene → 1-methylethenylとなり、確実です。最後に、これがシクロへキセンの4番の炭素に付いているので、まとめると1-Methyl-4-(1-methylethenyl)-cyclohexeneとなります。

炭素数3のpropaneをもとに考えると、C=C二重結合が1個あることも考慮してpropeneとなります。これから1個のH原子を外して置換基の形にするのでpropenylとなります。2番の炭素が母体と繋がっているので1-Methyl-4-(2-propenyl)-cyclohexeneでも良さそうですが、1-Methyl-4-(1-methylethenyl)-cyclohexeneの方が間違いないと思います。

まとめ

柑橘類に含まれるD-リモネンが油の性質が大きいことによって、電子レンジの油汚れと混ざり合ってこびりついた油汚れを軟らかくすることができます。これにより、油汚れを布で拭き取ることが可能になります。性質の似たもの同士(油と油)は混ざり合うことができるということです。

人間関係の場合は「類は友を呼ぶ」というのもありますが、「似た者同士は反発する」というのもあったりして、複雑ですね。この記事の中では前者として捉えておけば理解しやすいと思います。

それでは、また。