こんにちは。kuma&nomiです。

最近話題のマレーシアでのVXの事件は、あれだけ危険度の高い薬品をどうやって無事に扱えたのか疑問でしたが、最近、2つの薬品を混ぜたものだというような報道されました。それぞれの薬品はさほど毒性はないので、実行した人達は無事だったというわけです。

その2つの化合物とは、QLとサルファーといわれていました。サルファーはsulfurで硫黄Sの単体のことでしょうか。情報がそれだけしかないので何ともいえませんが・・・。

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QL

QL

OLとはイソプロピルアミノエチルメチル亜ホスホン酸エステルといって、VXの手前の化学物質(VXの前駆体)です。イソプロピルアミノエチルアルコールとエチルアルコールとメチル亜ホスホン酸からできたジエステルです。エステルとは、酸とアルコールから脱水してできた化合物の総称です。ここで亜ホスホン酸とは、ホスホン酸PH(=O)(OH)2の中央のPに二重結合で付いたO原子がないもの、つまりPH(OH)2です。メチル亜ホスホン酸はその亜ホスホン酸のP-HがP-CH3に変わったもの、つまり、P原子に付いたH原子がメチル基CH3に置き換わったものです。

この化合物がどうやってVXに変わるかを考えるために、構造式を比べてみましょう。QLになくてVXにあるものはP=O二重結合を形成している酸素原子Oと、イソプロピルアミノエチル基が繋がっているところの硫黄原子Sです。QLの方は硫黄原子Sではなく、酸素原子Oです。違いはこの2ヶ所だけです。

VX

VX

それでは、テレビで言っていたサルファーというものをQLに混ぜるとどうなるのでしょう。サルファーは硫黄単体Sである可能性が高いですが、もしかしたら何らかの硫黄化合物をテレビではサルファーと言っていた可能性もあります。でも、サルファーが正しいなら、硫黄の単体です。つまり、表面が黄色い固体として知られる硫黄です。

QLからVXができたのであれば、反応機構は私にはわかりませんが、結果的に中央のリン原子Pが酸化されてP=O結合ができて、さらに、イソプロピルアミノエチルの付いたエステル結合の部分の酸素原子Oが硫黄原子Sに置き換わったことになります。そのほかにもいくつかの種類の化合物も副生しますが、たとえ混ざり物でVXの純度が低くても、ごく少量で人体に作用することができるので、そのようなやり方でも十分だったのではないでしょうか。

農薬でもパラチオンのSが体内でOに変わると強い毒性を示すことが知られています。VXの場合はQLのOがSに変わってさらに酸化されて(Oが付いて)できています。毒性を示すかどうかについては特に「こういう化学構造だからこういう毒性」という法則はなくて、たまたまそういう毒性だったと考えるべきでしょう。あくまでも結果がそうだったということで、予測はかなり困難と思います。なぜならば、類似の構造であっても毒性が低いものがあるのは化学の世界では珍しいことではないからです。

酸化還元反応で考えると、この場合、イソプロピルアミノエチルメチル亜ホスホン酸エステル(QL)の方が還元剤として働き、硫黄Sの方が酸化剤として働いたことになります。リンPの酸化数はQLでは+3ですがVXでは+5に変化しています。Sの方は硫化水素H2Sか何かができたのかもしれません。もしそうだと仮定すれば、硫黄Sの酸化数は0から-2に変化したことになります。まあ、このあたりは憶測です。でも、硫化水素H2Sが生成したとすれば、温泉地帯の硫黄臭がするはずです。ちなみに固体の単体の硫黄はそのようなにおいはしません。

結論

いずれにしても、2つの化合物を混ぜてVXを作ったのであれば、そして片方がQL(イソプロピルアミノエチルメチル亜ホスホン酸エステル)であるのが間違いないのであれば、QLが酸化され、さらにイソプロピルアミノエチルの付いたエステル結合の部分のOがSに変わってVXになったことになります。

それでは、また。